「誰にも干渉されたくない……」そう思わせるほど劣等感は心をえぐり苦しめます。
でも独りぼっちになるのも怖い。だからつながりを求める……浅く……広く。
心が押しつぶされそうな劣等感を克服する方法はないのでしょうか?
劣等感は克服しなくてもよいのです。
人を否定しない態度を持てば、劣等感が自分を成長させる。
苦しい不安を解消する5つの思考技術を提案します。
目次
他人と比べる心が苦しい劣等感を生む
コミュニティの価値観に影響される
劣等感とは活動の成果を満たすために必要な能力が劣っていると感じることです。
なにかの基準があるから劣っていると感じる。その基準はほとんどの場合「コミュニティ」つまり他者との関わりから生まれる。
学校・会社・ママ友グループ……などのコミュニティには、隠された比較水準があります。
- 学校→学業成績、容姿
- 会社→営業成績、人気
- ママ友グループ→生活水準・子供の成績
これらはほんの一部です。重要視される価値観は同種のコミュニティでも違いがあります。
たとえば子どもは発達段階により感じやすい劣等感情が違う。
- 小学生→家庭環境・運動能力
- 中学生→学業成績・知的能力
- 高校生→身体的魅力
- 大学生→コミュニケーション能力
参考文献:自己の重要領域からみた青年期における劣等感の発達的変化
小学校から中学校へは自動的に進学できるので、小学生は学業成績の差を重視しない傾向があります。
しかし中学生になるとほとんどの生徒が高校受験に取り組むことになる。中学生は誰もが学力に向き合わなければならない。
高校に入ると成績や目的に合わせて学校を選べる分、学力の縛りは緩和される。代わりに恋愛が社会一般的に認められるようになり関心が高まる。
高校生まで閉鎖的だったコミュニケーションは大学生になると急激に広がりを見せる。対人関係の構築がうまければ自分に誇りを感じるようになる。
コミュニティに共通して存在する価値観に惑わされて、苦しい気持ちになってしまうのが劣等感のつらさと言えます。
特に自分のしたいことが見つかっておらず、周りに合わせた行動を取るとその影響は大きくなる。
マウンティングが劣等感を高める
能力の差が明確でも、コミュニティの中で安らぎを感じられると劣等感に苦しむ気持ちは和らぎます。
しかしマウンティング社会では心が休まらず、いつも苦しい気持ちになる。
マウンティングというのは、権力を守るために他人をおとしめるために攻撃することです。サル山のボスをイメージするとわかりやすい。
人間社会のマウンティングには2つの種類があります。
- 個人的マウンティング
- 組織的マウンティング
個人的マウンティング
動物のマウンティングと変わらない、個人が自分の優等さを示すために他者を攻撃する行為です。
ガキ大将のように暴力によって力を見せつける方法があります。
しかし多くの人は言葉を巧みに使って間接的に人をおとしめようとする。
言ったことを暗に否定するような発言や、多数派を作って少数派を糾弾するような行為です。
組織的マウンティング
成果主義などの仕組みで組織的に優劣を明確にしているせいで、劣る人が責められている気になるのが組織的マウンティングです。
個人的なマウンティングが起こっていなくても、劣等感に苦しむことになる。
しかも組織に優劣を明確に決める仕組みがあると、ほとんどの場合で個人的マウンティングに発展します。
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場所により優劣は変わる
公立中学校から超進学校に入学すると、トップクラスだった成績が下位に落ちる……ことは想像できますよね。
同じように大学時代はみんなの中心人物だったのに、入社した会社では相手にされずにその他一般として扱われてしまう。
この格差を経験すると、想定外の劣等感が生じます。
傷は癒えるときよりも傷つくときのほうが衝撃的です。
「世間は広い、私はまだまだ」と理屈では納得できていてもトラウマになってしまう。
それでも自分が優秀だった場所では頼られていたはず。しかし人の力になれた経験があるのに、自分はできないと卑下してしまいます。
以上に共通するのは、
- 社会的な要因により個人の大事にする価値観を決められてしまう
ということ。このせいで劣等感は苦しみを生みます。
しかし
人間の価値は存在そのもの
です。環境なんかでは決まりません。
これはきれいごとに聞こえるかもしれませんが、本当のことです。
そのために正しく劣等感を解釈し、環境に流されない自己認識の基礎を作ります。
劣等感の解消は意味がない。苦しい劣等感を正しく知る
劣っていれば必ず劣等感は生じる
そもそも劣等感というのは「劣っており、目的の達成が困難だ」ということを知るための自己認知技能だと思います。
劣っていると知ることで自分の能力を高めていく動機になる。それが人間を成長させ、進化につながったのではないでしょうか。
しかし劣等感は苦しい。その原因は1つの錯覚にあります。
- 能力の評価が人間性の評価だと錯覚している
目的が達成できないことの人的理由は能力が足りないからです。人間性とはまるで関係がありません。
しかし社会経験で当然のように起こるマウンティングにより能力の劣性を理由に攻撃される。これが人間性をおとしめるように感じる。
攻撃された側も劣等感と人間性否定に因果関係を感じてしまい、その価値観に囚われてしまうのです。
遺伝子の焦りが伝わる
まったくの形式的な思想なので根拠はありません
モテなくっても、勉強ができなくっても、仕事ができなくっても、ここまで文明が発達した国に住む私たちが生きることへの障壁にはならない。
しかし太古から人間の成長を司ってきた遺伝子は焦りを感じるのではないでしょうか?
モテなかったら繁殖の機会を逃します。遺伝子の最重要命令は種の保存です。つまり後世まで生き延びること。体は遺伝子の乗り物とまで言う人もいます。
勉強や仕事は昔で言うところの狩猟に似ています。生きるための食料を得る能力が学力や仕事力になる。
食料がなくて死んでしまったらそこで終わりです。遺伝子としてはそれを良しとするはずがない。
そのため遺伝子は劣等さを感じたら脳などからストレス物質を放出し、本人の意識に「これじゃダメだぞ」とメッセージを送っているのではないでしょうか。
心でなく、体が苦しい
劣等感の苦しみは
- 胸が詰まる
- 鼓動が高鳴る
- 体温のコントロールが乱れる
- 手足がこわばる……など
このような形で体に影響を及ぼします。
劣等感は心の問題ではありますが、その苦しみは体で感じている。
気分の変化を意識は知覚しますが、実際に体の様子が変化しているから気分がすぐれない。
事前の行動や認識によって脳はさまざまなホルモンを放出する。それに体が反応して動いています。
つまり考え方や行動を変えれば劣等感の苦しみを減らすことは十分に可能です。
劣等感がなければ自分に足りない能力が何なのかわかりません。
劣等感は自己成長に必要なのです。
苦しみを抑えて劣等感を有効に活用するにはどうしたらいいのでしょうか?
劣等感で成長する5つのメソッド
1.否定をしないという態度
劣等感に苦しむ人は自分も人を見下す傾向がある。
そこで「そうなのか、本当に私は情けないな」と思っても良いですが、99%の人間は多かれ少なかれ人を見下しているという事実を知ってもらいたい。
誰もが人と自分を比較しています。しかし卑下したり劣等感を感じたりする考えは軽減できます。
そのためには能力の差を人間性と結びつけることを止めるように努力する。そうすれば次第に見下す気持ちが弱くなる。
比較は「見比べて差を理解する」という認知の技法です。これは分析にはなくてはならない優秀な技法といえます。
比較の良い部分だけ生かすには
相手を否定しない
という価値観が超大事です。
どんな相手でも否定をしてはいけません。そのかわりに3つのことをします。
- 受け止める
- 検証する
- 理解する
たとえば
俺こないだ失敗しちゃってさ……ウソをついてごまかしたんだ、絶対バレたくないし……でもあの上司嫌いだからそれでいいんだよ
と言われると「ウソをつくのは良くないだろう」「嫌いでも迷惑がかかるだろう」と表面的な問題点に反応して相手を責めたくなります。
「だからあいつはダメなんだよ」と内心思ってしまう。それが自分の中の人を見下す傾向を強化する。
それを防ぐために
- 受け止める(失敗して……ウソをついちゃったのか……バレたくない……嫌いなんだな)
- 検証する(本当はウソを付きたくなかった、しかしバレる恐ろしさに負けた。その理由を上司に押し付けてしまった)
- 認める(そんなことがあったのは理解できた、彼の気持ちは理解できた)
という流れで考えます。
それを踏まえた上で返答すればいいのですが、「答えなきゃ」と焦らないようにする。時間をかけてもまるで問題ない。
何も言えなかったら「そうか……」とだけいう。無責任で冷たく聞こえるかもしれませんが、反応的な否定をするより印象はずいぶん良くなります。
否定をしないというのは対話だけではありません。
テレビやSNSで否定したくなっても同じように「受け止める→検証する→認める」の流れを忘れない。
たとえ反応的に否定したとしても、気を取り直してもういちど受け止め直す。
こういった態度は一つの技術になり、経験を積めば向上していきます。
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2.マウンティングが止まない相手とは別れる
自分が相手に対して受容的な態度を取れば、多くの人は共感を示し受容的な態度で接してくれます。
しかし中には根深い劣等感に苦しむために、いつまでたってもマウンティングをやめられない人がいます。
そんな人に対しても慈愛を持って接すれば理想的ですが、同じように劣等感に苦しんでいる人には、なかなかつらいことでしょう。
自分の態度を改めても相手が変わらないようなら、思い切って近づくのを止めます。
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3.毎日、自分のための時間を持つ
絶対に環境に流されない時間を一日のうちどこかに設定をし、そのときは自分を磨く行動をします。
流されるべきではない環境とは
- テレビ
- ネットサーフィン
- ゲーム
- 晩酌
- 漫画
- 友達
- 家族……など
30分でも1時間でもよい。考えを広げるために本を読む・資格を取る、勉強をするなどの具体的な学習が好ましい。
しかし劣等感の苦しみが強ければ、自分を磨く努力などできません。
まずは自分の気持ちに徹底的に向き合ってみる。
自分ができないことを知るために劣等感はあります。
苦しみのわけは心が体にストレスを感じさせる命令を出しているからですよね。
つまり心がどんな命令をしているのか、「否定をしない」という態度に従い自分の心を分析すればいい。
自分の人間性を否定せずに、能力の足りなさを冷静に分析する。
あいつはすごい、自分は劣っているだめなやつだ
と人間性に不安を感じているなら
あいつはできているな。しかしそれは自分には関係ない。自分は……まだ目的を果たすのに能力が足りないな。
と能力の欠乏を認識する。
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4.自分を磨く計画を立てる
自分の足りないところがわかったら、
- 能力向上に取り組む
- その能力の低さをあきらめる
かどうかを検討します。たとえば
- 学力に劣等さを感じていて高めたいと思えるなら、能力向上の計画を立てる
- 容姿に劣等さを感じているが、解消するのが難しいならあきらめる
というようにします。
あきらめるといっても手放せない価値もあるでしょう。むしろ劣等さを感じるくらいなので執着しているかもしれません。
そのため他の価値項目で自信を得られるように計画を立てます。
容姿についてなら、オシャレ・メイクなどで外見を磨いてもよいし、勉強・運動などほかに自信を持てることでもよい。
大事なのは1つの劣等さ(容姿)を他の要素で埋めようとしないこと。たとえメイクがうまくなっても容姿が変わるわけではない。
メイクが上手いということが自分の魅力を高めていると捉え、あくまで全体の魅力を高めることを目指します。
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5.認め合えるコミュニティに参加する
否定をしないという態度が磨かれれば、相手を見下すような態度を取らなくなる。
周りの人も安心できるから信頼関係が強化され、良いコミュニティが作れます。
人を積極的に受容する集団にいれば、心を支える土台ができるので少々のつらさなら立ち直れます。
安心できるコミュニティは仕事のような共通の目標があるところでもかまいませんが、マウンティングも発生しやすいので注意しなければならない。
自分のいちばん重視する活動でなくてもよい。趣味の集まりやもともとの友人との関係を深めるのが適切かもしれません。
大事なのは否定をしない態度です。
それがなければ劣等感はどこでだって現れる。それを忘れないようにします。
おさらい
劣等感が苦しくなるという現象は、競争社会(一方が勝ち、一方が負ける)に起こる重大な問題です。
自分ができることをしていけば生活が保証される社会なのに、環境が決めた価値観を受け取り、自分自身を見失っているから苦しくなる。
ほんとうの意味で劣等感を克服するのは、みずからが成功者になるしかありえません。つまりほとんどの人たちは劣等感に向き合うしかない。
しかし劣等感は
- 目的を達成する能力が無いをことを認識する感情
です。できないことはわかったほうが楽ですよね。だから劣等感は大切なのです。
自分を苦しめるのは「見下される・認められない」と感じる気持ちです。能力が足りないことを人間性に影響する気持ちに結びつけてはいけません。
それを解決するいちばん大事なことは
- 相手を否定しないこと
です。それが自分への否定を止める考え方の基礎になる。
最後に一つだけ。簡単に人は変わりません。少しずつ「否定しない」という考え方を磨いて心に根付かせてください。
つらい時は休んでください。気休めではありません。休んだほうが意識改革の効率が良い場合もあるのです。