ビアノの発表会・大事な部活の試合・入社面接……これまで人生の大事な場面で、極度の緊張を感じてきた。
がんばらないといけないときに不安がつきまとう。おまじないにも頼ってみるが、まったく効果は出ない。
あがりグセを直さないと、これからも仕事で大きなミスを犯しそうで怖い……。
大舞台に立つときに一番恐ろしいのが、ガチガチに緊張することですよね。
楽器の演奏コンクールや歌のオーディション、仕事で偉い人を前にプレゼンをするとき、初心者ドライバーの車の運転まで、失敗すると非常に嫌な思いをします。
緊張を和らげる方法はなんでしょうか?
深呼吸の正しい方法を知りましょう。
大舞台に立つ前に落ち着ける、深呼吸を用いた瞑想(めいそう)のテクニックをご紹介します。
目次
緊張を和らげる簡単な方法:【基本】深呼吸をし「今」に集中する
過去や未来の悪い面が、不安を誘う
「今」とは現時点(たった今・Just now)です。
誰しも今を感じながら生きているのが当たり前のように思いますよね。
しかし感じること、すなわち知覚というのは解釈をして初めて意味を持ちます。
眼の前に「りんご」があったとしても、「これはりんごだな」と意識に上らなければ、あってもなくても一緒なのです。
意識に上るのは目の前の出来事だけではありません。蓄積してきた記憶にも意識は向く。
例えば歯を磨きながら「昨日の合コンで恥ずかしい思いをしたな」と、ふと思い出すことがあります。
歯を磨いている「今」に集中せず、昨日の思い出「記憶」に集中してしまうんですね。
緊張してしまうのは不安に襲われているからだと前回の記事:緊張する原因を解説。人前で話すのがなぜ苦手か理解できる考察でお伝えしました。
なぜ不安に襲われるのでしょうか?
その疑問を解消するために、2つの不安の出どころについて押さえておきましょう。
- 後悔から来る不安(過去)
- 懸念から来る不安(未来)
つまり不安を感じているのは「今」を無視して、「過去」や「未来」の記憶に意識が囚われている状態だと理解できます。例えば、
- 後悔から来る不安(過去)
前回の企画発表会では頭が真っ白になり、話の要点が聞き手に伝わらず、まったく賛同が得られなかった。
私は上司に認めてもらえる資質がないのかもしれない。
- 懸念から来る不安(未来)
きっと次のコンサートは成功する、あれだけ練習したんだ。
しかし練習で何度も失敗したあのフレーズが成功するか不安で仕方がない。
失敗したら集中力を取り戻せるのだろうか。いまいち自信が持てない。
不安を感じると体が緊張していきます。
そして本番中、実際に失敗をする(と思いこむ)とさらに緊張は高まり、自分をコントロールできなくなる。
つまり不安にとらわれている状態では、自分の実力が発揮できないということです。
深呼吸は手軽にできるリラックス方法
不安から逃れるためには何をすればよいのでしょうか?
「今」に集中する。
過去の後悔や未来の懸念に囚われず、体の感覚を今この場所に集中すればいいのです。
集中するためには、深呼吸を用いた瞑想が効果的だと言われています。
深呼吸は自律神経系の活動を安定させることで、体をリラックス状態に導いてくれます。
自律神経系とは、生きるために体を安定させる機能です。呼吸をしたり、体温を調節したりなど、主に無意識での自動的な活動を支えてくれる。
そして自律神経系はさらに役割の違う2つの神経系に分かれます。
- 交感神経(主に活動・集中・緊張時の神経活動を制御)
- 副交感神経(主に睡眠・リラックス時の神経活動を制御)
交感神経と副交感神経は基本的に反対の役割を持つ。
例えば交感神経系が優勢になると、
- 消化器の働きを抑制する
- 心拍数を増加させる
- 涙を止める
などの働きを導きます。
どうしてそのような作用が起こるのでしょうか?
身体に行動を起こさせるためです。
前記事:緊張する原因を解説。人前で話すのがなぜ苦手か理解できる考察で、闘争・逃走反応について説明しました。
闘争・逃走反応は体を緊張状態にするんでしたよね。
相手に立ち向かったり逃げ出したりするには、筋肉に力を込めなければなりません。
このため適度な緊張は、運動パフォーマンスを高めるために必要なのです。
しかし緊張が過ぎると手足の動きがギクシャクしたり、物事を捉える視野が狭くなったりするなどの要因で、パフォーマンスを低下してしまう。
緊張が過ぎるというのは、交感神経系が異常に興奮している状態です。このままでは体がガチガチになっちゃうんですね。
一方で副交感神経系が優勢になると、
- 消化を促す
- 心拍数を減らす
- 涙を促す
などの働き、つまり交感神経系と真逆の反応が大部分の身体機能で起きる。
食事をした後にだらんと横になってしまいたくなる感覚は、多少の差はあれど誰でも持っていると思います。
このときまさに副交感神経系が優位な状態なんですね。
副交感神経系を優位にする手軽な方法は、深呼吸です。
適切に深呼吸をすれば、副交感神経系が優位になる。
副交感神経系が優位になれば、体がリラックスして緊張がほぐれるのです。
深呼吸を用いた緊張緩和の研究は多数行われています。
そのうちの1つ、教職員などを対象にストレス低減効果を検証した実験(2011年)の考察をご紹介しましょう。
【呼吸法による生理的低減効果】
拡張期血圧(中略)有意に低下し、血圧においてもストレス低減効果が確認された。
副交感神経が優位になると血管が拡張し、血圧や脈拍は低下してリラックスした状態になる。
収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍の低下からは、リラクセーション効果が認められた。
この呼吸法により交感神経活動の抑制と副交感神経活動の亢進が行われ、自律神経機能が調節されてストレスが低減されたと考えられる。
禅的呼吸法によるストレス低減効果 - 京都大学学術情報リポジトリ
つまり適切な深呼吸により血圧と脈拍の低下が起こり、それに伴いリラックス効果も確認できたということです。
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不安に反論せず、不必要なものとして捨てる
また深呼吸で重要なのは「今」の意識です。
過去や未来の不安に悩みながら深呼吸しても、リラックスできるどころか緊張が高まるかもしれません。
不安にとらわれないためにはどうしたらいいのでしょうか?
瞑想の考えを取り入れて「今」に意識を集中すればいい。
深呼吸中でも不安は雑念となって現れます。
瞑想の考えでは、目を閉じて頭に浮かんだ雑念を否定も肯定もせず「ただ考えが浮かんだ」と理解する。
このように今自分が何を考えているのか点検する思考をメタ認知と言います。
瞑想はメタ認知で捉えた情報のうち、不安などの雑念に反論をせず、ただ捨てるという考え方で対処します。
例えばプレゼンで「絶対にどもってしまう」と心配な人が、
私はどもらない、大丈夫、集中してがんばろう
と力まなくてもいいということです。
私はどもるかもしれないな、まあどもったって誰も気にとめないさ。今はゆったりと体をリラックスさせよう
このように「どもるかもしれない」という考えを「心配してもしょうがない」という理由で捨てます。
緊張しすぎると失敗に意識が向きすぎて注意力が散漫になるでしょう。
反対にいったんリラックスし、心地よい緊張感の中で取り組めば、注意力が増す。
結果として全体的なパフォーマンスは高くなり、多少の失敗くらいは取り戻せます。
目を閉じながら深呼吸をして、雑念が浮かんだら息と一緒に外に捨てる意識を持つと、効果的な深呼吸ができる。
瞑想的な深呼吸は、今に意識を集中することで効果を発揮します。
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具体的な深呼吸を用いた瞑想の方法
1.姿勢を正す
できる限りあぐらをかく・椅子に腰掛けるなどの座っている状態が好ましいでしょう。
時間の確保が難しければ、立ったままでも問題はありません。歩きながらでも効果はあります。
姿勢を正すコツは以下の通り。
- 背筋を伸ばす
- 肩を広げる
- 体を支える骨が真っすぐ伸びる一本の棒になったイメージで
- 頭のてっぺんをひもで引っ張られているイメージで
- 脱力して
瞑想の際は、目を閉じたほうがよい。
視覚刺激が遮断されると、聴覚その他の体の感覚に意識を向けやすいので、僕はいつも閉じています。
2.鼻からゆっくりと息を吸う
深呼吸は普段使っていない肺の隅々まで、「鼻」からたっぷりと息を吸います。
コツは以下の順番で空気をためるように意識して吸うこと。
- 胸を広げて(肩を広げて)
- おなかを膨らませて
- へその下に向けて(お尻に向けて)
もしこの順番で息をためるのが難しければ、逆の順番でも問題ありません。
肺全体をふくらませるイメージで、3〜6秒程度かけてゆっくりと吸います。
息を吸う間は考え事をせず、冷たい空気の感覚や、吸気のかすかな音に集中しましょう。
要するに五感が受け取る「今」の状態を味わうってことです。
3.息を少しだけ止める
酸素を全身に行き渡らせるイメージで、少しだけ空気を保持します。目安は2〜4秒程度で良いでしょう。吸気よりやや短めに止める。
息を止めている間は血液を通して体中に酸素が巡っている様子を体感できます。
4.鼻からゆっくりと息を吐く
吸気と同様にゆっくりと鼻から息を吐いていきます。
肺にたまった空気を全て絞り出すイメージを持ちましょう。
息を吐く順番は、以下の通り。
- へその下から絞り出す(お尻から)
- おなかをへこませながら
- 胸を自然な状態に(肩をリラックスさせる)
この順番で息が吐きにくかったら反対でも構いません。吸気と同じ順番でもよい。
鼻から吐くのが難しければ、口から吐いても良い。その場合は口をすぼめると(僕は)吐きやすく感じます。
息を吐く時間はできる限り長く保つ。
実は呼吸の長さにリラックス効果を高めるコツが隠されているんです。
息を吸うときは交感神経系が優位になる。反対に息を吐くときは副交感神経系が優位になる。
つまり吸う時間より吐く時間を長くしたほうが、緊張がほぐれるのです。
吐くときも「今」を感じるのは重要です。微かな音に耳を澄ませたり、体で温まった空気を舌先で感じたりすればよいでしょう。
また瞑想中に不安や雑念を感じるなら、吐く息に混ぜて体の中から出すようなイメージを持つ。
補足
- 吸う・止める・吐くの割合は、2:1:6が基本(4秒・2秒・12秒など)
- 呼吸が苦しくなるようなら、無理をせずに自分のペースを優先する
- 「今」を感覚でキャッチする。目を閉じて音や体感を研ぎ澄ませて
- 雑念が浮かんだら、吐く息と一緒に体の外に出し、今に集中する
今回紹介した深呼吸は、日常のどんなシーンでもすぐに実施できます。
ストレスを感じたとき、直ちに深呼吸をすれば、緊張の緩和だけではなくイライラの軽減などにも効果があります。
※本記事は以下の書類から知見を得ています。とても見やすく深呼吸での瞑想法が紹介されているので、こちらも参考になると思いますよ。
【深呼吸を応用】漸進的筋弛緩法で脱緊張
緊張を段階的にほぐす漸進的筋弛緩法
少し難しい読み方の漸進的筋弛緩法(ぜんしんてき_きん_しかんほう)ですが、どのような方法で緊張をほぐすのでしょうか?
まず漸進的筋弛緩法の基本定義は以下のようになる。
身体を9つの筋群のブロックに分けて,系統的・漸進的に緊張と弛緩を繰り返すことで,全身の筋肉の弛緩感覚を高め,リラックス反応を引き出す方法である。
健康女性を対象とした漸進的筋弛緩法によるリラックス反応の評価(非開示)
例えば肩にぎゅ〜っと力を込めてから、一気に力を緩めると、筋肉の緊張と弛緩の感覚がつかめますよね。
つまり緊張した筋肉は自分の意志で緩められるということです。
体の末端から中央まで順番に緊張をほぐす漸進的筋弛緩法は、少々時間をかけて闘争・逃走反応を和らげ、副交感神経の働きを強めていく。
自分一人でもできるシンプルなリラックス法ですが、難しいと感じる方は、最寄りにある心療内科の医師などの専門家に相談することをおすすめします。
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漸進的筋弛緩法の具体的な方法
1.準備
前章で紹介した深呼吸を用いた瞑想のように姿勢を正します。
体の部位にもよりますが、椅子に腰掛けた状態のほうがやりやすい。
薄暗いほうが落ち着くようなら、部屋の明るさを落とします。
2.深呼吸
初めに深呼吸をしてリラックスします。気持ちが落ち着くまで数回繰り返してください。
体に力を入れ始めた後でも疲れを感じたら、そのつど深呼吸をして体を休めます。
漸進的筋弛緩法でも、体の感覚を捉えるために、目を閉じたほうがよいでしょう。
3.身体の部位に力を入れて、緩める
呼吸は止めないようにします。吸って吐いて……を繰り返してください。
まずは両手のエクササイズから行いましょう。手のひらを上にして両膝の上に置きます。
息を吸いながら5〜10秒、握りこぶしを作って力を込める。
続いて息を吐きながら、握りこぶしを解き力を抜きます。10〜20秒間、脱力して息を吐き続けましょう。
力を込めて緩める動作は、しっかりと脱力を感じるまで2度以上繰り返します。
このように一連の動作を体の各部位で行っていく。
漸進的筋弛緩法で扱う体の部位には、これと言って決まりがありません。やりやすい場所を自分で探してみてください。
参考までに幾つか例を上げます。
- 両腕:膝の上においたまま握りこぶしを作ります
- 両足:足のつま先を立てて,かかとで思い切り強く床を踏みしめます
- お尻:こう門に力を入れて,お尻の筋肉を緊張させます
- おなかと腰:おなかをへこませながら,腰を前につきだして,弓なりにします
- 胸と背中:大きく息を吸いながら,胸を前に突き出します
- 肩と首:両肩をすくめるようにして,耳の方に引き上げます
- 額:両方のまぶたは閉じたままで,眉を頭の方に引き上げて,額に横のシワを寄せます
- まぶた:今度は,まぶたを強く閉じると,鼻にしわが寄ります
- 顎:奥歯と奥歯をかみ合わせて,口の端を引っ張り上げるようにして,緊張させます
引用元:健康女性を対象とした漸進的筋弛緩法によるリラックス反応の評価(見やすいようにレイアウト変更、難読漢字をひらがなに変更)
ここで紹介した方法以外に、以下の書類を参考にすると、イメージがつかみやすいかもしれません。
おさらい
古くから落ち着くために深呼吸は用いられていました。適切な方法を知れば、深呼吸のリラックス効果は何倍にも高まるんですね。
リラックスのポイントは、副交感神経系を優勢にすることです。副交感神経系は息を吐くときに活動するメカニズムがある。
つまりたっぷり息を吸って、長い時間をかけて吐ききると、緊張がほぐれるんですね。
深呼吸をする際は、不安に考えを囚われず、「今」を聴覚や体性感覚で味わうと良い。
不安は心ここにあらずの状態でしょう。本当のところ心はちゃんと「今ここ」にあるのです。
活動までに時間があるときは、全身の緊張を丁寧に解していく漸進的筋弛緩法が効果を発揮します。
深呼吸と合わせて活用するとよいでしょう。
次の記事で緊張しないメンタルについて押さえます。
緊張を和らげるメソッド