「もう仕事に行きたくない……!」
幼稚な女先輩・やたら攻撃的な男の同僚・会話をしようと思っても目を伏せ去っていく後輩……。職場には私を無視する人がいる。
無視する人たちを私は対応できずに苦しみ続けなければならないのか。
精神的な攻撃を受けると、世界中の光が消えてしまったような強い不安に襲われます。
「無視には大人の対応がいちばん」と言ってもなかなか実行できるものではありません。
なぜ彼らはあなたを無視してしまうのでしょうか?
加害者の個人的な3つの因子と、職場環境のせいで、無視は発生する。
記事を2部に分けて、いじめのメカニズムから、対象方法までご紹介します。
目次
無視する人の心理。モラハラは痛みを伴なう暴力
反応しないことに反応させる
静かに相手を苦しめる「無視」。
精神的な暴力の代表格として、これまで多くの人間関係を壊してきました。
無視は呼びかけに反応しないことで敵対反応を示す行動です。一見なにも起こっていないようですが、明らかな攻撃性を相手に伝えている。
呼びかけても無視され……そのかわりに心の痛みが鋭く跳ね返ってくる。
友人同士でも、ちょっとしたケンカが無視に発展してしまいます。
ケンカでムカついた気持ちが治まらないため、相手を攻撃しようとしてしまうのでしょう。
友人相手の一時的な無視は、時間がたつと怒りが記憶から薄れていくので、自然に仲直りができる。
そもそも既に信頼関係を築いている間柄なら、無視というのは理解をしてほしいという欲求の現れに過ぎないのです。
しかし当事者の間でケンカがなかったとしても、職場で起きる無視は発生してしまう。
なぜでしょうか?
加害者が自分のためだけにわざと被害者を攻撃しようとした。
信頼関係を築いていない関係がもたらす職場の無視は長引きやすい。一度始まるとなかなか治まってくれないのです。
無視はモラルハラスメント
モラルハラスメントという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
辞書によるとモラルハラスメントとは、
暴力は振るわず、言葉や態度で嫌がらせをし、いじめること。精神的暴力。精神的虐待。モラハラ。
と説明されている。つまり精神的な嫌がらせのことです。
肉体的な嫌がらせのように叩いたり、権力を駆使して嫌な仕事を押し付けられたりするわけではない。
しかし静かに行われるこのハラスメントは、対象を精神的に追い込み、最終的には離職や休職にまで発展する可能性を大いに含んでいます。
そのモラルハラスメントを代表する行為が無視なのです。
また無視は加害者意識が低い傾向があります。呼びかけに応じないというポーズしか行わないため、攻撃している意識が低い。
そのため加害者はむしろ「自分こそが迷惑を被っている」という被害者意識を感じているかもしれません。
職場における無視は基本的にどんな間柄でも発生する。例えば、
被害者 | 加害者 |
---|---|
新入社員 | 入社3年目の先輩 |
営業成績が良かったスタッフ | 成績に嫉妬している同期のスタッフ |
プロジェクトのリーダー | プロジェクトに参加させられた後輩社員 |
というように上下関係にかかわらず発生します。
後輩や同期生からされる無視も手ごわいケースが多いですが、一番つらいのは先輩や上司からの「パワーハラスメント(パワハラ)」によるものでしょう。
パワハラを背景にされる無視は攻撃性が高く、被害者の尊厳を著しく奪っていきます。
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無視は個人の尊厳を壊していく
なぜ無視されるとつらいのでしょうか?考えられる要素をいくつか以下に出します。
- 相手を怒らせたと感じ、報復を恐れる
- コミュニケーションが取れないため、業務に支障をきたして困る
- 自分が認められたい欲求が解消しない
- ケンカをしている状態に緊張を感じる
- 相手から受け入れられず、疎外感を感じる
無視の被害者は嫌な気持ちを感じると、それがストレスになるのですね。
そしてストレスは精神的なダメージを及ぼします。問題が解決されない状態が続くと心の傷がどんどん深くなる。
実は心が傷つくと、人は本当に「痛い」と感じる……にわかに信じがたいですが、本当と考えられています。
肉体的なダメージを受けて痛みを知覚する原理は、精神的なダメージでも同様に働くと主張する研究結果がある。
仲間はずれにされたとき,疎外されたときに感じる心の痛み(social pain)によってACCとPFCが賦活されることが示されている
(中略)自分の身体の痛みで反応する領域が,心の痛みでも反応する.ということは,まさに「心の痛み」と「身体の痛み」は同じシステムを使っているということになる
つまりモラルハラスメントは実際に痛いのです。
当節の頭にあるリストの一番下「相手から受け入れられず、疎外感を感じる」というストレスは、精神的なダメージの中でも特に深く心を傷つけます。
精神的・情動的ストレス(=心の痛み)の中でも,最も耐えがたいストレスは,社会から疎外され,社会的敗者になること(social defeat)かもしれない
以上2つの引用:ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム - 日本緩和医療薬学会
仲間はずれにされると、自分がコミュニティ(例えば職場)の一員として認められていないように感じる。
どこかのコミュニティに所属して、社会的な安全を求める欲求が満たされないと、人間は強い不安を感じます。
そして不安は個人の尊厳を壊していき、強く生きられる自信を失ってしまう。
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職場で無視する人は「いじめ」の加害者。簡単ではない心理状態
肉体的ないじめから、精神的ないじめへ
大人よりも子供のほうが衝動的に暴力をふるいますよね。
自分のフラストレーションをはらすために、きょうだいを殴ったり、友だちのカバンを奪って放り投げたりします。
しかし歳を重ねると、ものの良し悪しが分かってくるので、次第に衝動的な行動は影を潜めていく。
心理学的に説明すると、発達の過程で物事の因果や相関関係が理解できるようになる。殴ったら自分の不利益になると知ったわけです。
しかし成長しても暴力がなくなるわけではありません。
それどころか加害者たちは不利益を減らすために、さまざまな戦術を用いるようになる。
- 連帯した複数人で一人に暴力を振るう
- 虚勢を張って相手を脅す
- 自分より弱くて気が小さい人をターゲットにする
つまり自分を強く見せることで、被害者を服従させるような関係に持ち込むのです。
このように加害者が強くて被害者が弱い関係の暴力が継続すると、いじめに発展します。
しかし肉体的な暴力はいじめが判明しやすく、自ら責任を取らされる可能性が高い。
そのため大人に近づくにつれ、いじめの加害者は精神的な暴力を好むようになり、モラルハラスメント中心になってきます。
中でも無視は明確な誹謗(ひぼう)中傷をしないので、保身を好む加害者に好まれる。
こうして大人になっても暴力的な傾向が消えない人が、無視という方法を使っていじめを続けるんです。
加害者もストレスを感じている
いくら暴力的な傾向がある人でも、理由がなければ無視をしません。
何かきっかけがあって人を傷つけようと思うのです。その理由とはいったい何でしょうか?
実はいじめの加害者もストレスを感じている。
そのストレスを解消したいから無視をしようとするわけです。
不満を感じるとストレスが貯まる。そもそもストレスとは安心・安全を感じていない状態で発生します。
ここで一つストレスを理解するために以下の文章を読んでみましょう。
あなたは腰みのを巻いた石器時代の人です。
仲間と3人でヤリを使ってシカ狩りをしている最中に、立派な角を持つ雄ジカにばったり出くわしました。
雄ジカは警戒して立ち止まった。あなたは自分より体重が重そうな獲物の眼の前に立ち、汗が吹き出した手のひらでヤリを握りしめる。
もしかしたら角で刺されてハラに穴が開くかもしれない……心臓が高鳴り、胸が苦しい。
背後から雄ジカに迫った仲間の一人がブスリ、と猛々しいシカの尻を一突き。
しかし混乱した雄ジカは、あなためがけて突進してくる……!
そしてあなたは衝動的に喉元めがけてヤリを突き刺した。
シカはその場で倒れ込み、あなたは徐々に安心を感じて胸をなでおろすのです。
つまりストレスを感じると人は攻撃的になる。苦しい状況から脱出するために、なにかを傷つけたい衝動に駆られます。
- おもちゃを奪われて激高し、きょうだいを殴る
- 自分をふった恋人が許せなくなり、ストーカー行為を始める
- 極限まで精神的に落ち込み、自分を殺してしまいたくなる
以上と同じように加害者にもストレスがあるから相手を攻撃したいと思う衝動が沸き起こるのでしょう。
職場のような社会人が集まる環境では、加害の意識が低くても人を攻撃できる無視が手っ取り早いのです。
ではそのストレスはどうして発生するのでしょうか?
もちろん原因は人それぞれあり、断定はできません。しかし職場のいじめの場合はいくつか以下のような傾向がある。
- 会社の方針や風土にいやいや従っているので、それらを守らない人が憎くてしょうがない
- もともと職場にいじめの文化が根づいており、自分も人を傷つける権利があると勘違いしてしまう。
- 自分の能力を他の人と比較する傾向があり、自分より確かに弱い存在がいないと安心できない
つまり
- 職場特有の環境に影響されてストレスを抱えている
- 暴力的な性質がある
- ストレス解消の手段を持ち合わせていない
という3つの因子が重なった結果として無視をしようと試みるんです。
余談ですが。
心理学者:V・E・フランクルによる、ナチスの強制収容所で自身が強制労働を強いられた経験をつづった「夜と霧」というベストセラーがあります。
暴力を受け続け、死と隣り合わせだった収容所生活。そこから抜け出した仲間の様子を見たフランクルは以下のように話している。
未成熟な人間が、この心理学的な段階で、あいかわらず権力や暴力といった枠組みにとらわれた心的態度を見せることがしばしば観察された。
そういう人々は、今や開放された者として、今度は自分が力と自由を意のままに、とことんためらいもなく行使していいのだと履き違えるのだ。
夜と霧 新版 | ヴィクトール・E・フランクル, 池田 香代子
これは極限状態に置かれた人間の例なので、職場のいじめとはまた違うでしょう。
しかし悪習へ精神的に服従してしまう人が後を絶たないことは、いじめが無くならない原因のひとつだと、僕は思います。
いじめの本質が知れる名著
誰かが被害者に決められる
無視の被害者になった場合に知ってほしいのが、「自分だから」いじめられたわけではない、ということです。
加害者はそもそも暴力的なので、ストレスを感じたら誰かをいじめて解消しようと試みたでしょう。
それでは誰を攻撃しようかと検討した結果、不幸にも自分が選ばれてしまった。
つまり何かしらいじめの対象を選ぶには基準がありそうです。その基準を以下に表してみます。
- 加害者と被害者が似ていない(性格・行動・出身地・趣味趣向・生育環境など)
- 加害者が被害者に対して嫉妬心を感じている
- 反撃をされる恐れがない人を選ぶ
- 被害者が以前に加害者を精神的に傷つけたことについて根に持っている
この基準を職場の周りの人に当てはめて、加害者はいじめのターゲットを決めます。
とくに無視をされる場合は、具体的な攻撃行動がないので、手軽に相手を傷つけられる。
試しに無視をしてみて被害者がショックを受ければ、いじめのターゲットとして相応しいと感じてしまうのです。
無視は会社全体の問題
無視に代表されるモラルハラスメントは、単に従業員同士の不仲で済まされる問題ではありません。
会社の運営にも大きな支障をきたすのです。
- 会社の雰囲気が悪くなり、いじめ当事者以外も職場にいることでストレスを感じる
- 「無視の実態」を無視しているいじめ当該者以外が、道徳的な葛藤を感じてストレスをかかえる
- いじめられた人が健康を害し、休職率・離職率が高まる。採用・教育などの費用がかさむ
- ストレスを感じた人たちは会社への忠誠心や作業効率が下がる。とくにいじめ被害者は顕著に能率が落ちる
会社の運営に悪影響が出ているということは、従業員に不利益を及ぼしていることと、まったく同じ意味でしょう。
大きな売上をもくろんで挑んだイベントが、諸事情により中止になった。今までの準備が全て無駄になったので大損害が出た。
という問題と、社内でいじめが行われていることは実質的には同じ不利益なんです。
もちろんいじめ加害者自身も少なからず悪影響を受けている。
職場でのいじめは倫理的な問題のみならず、会社全体の問題でもあります。
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おさらい
自分の尊厳が失われていくのは、どんなに恐ろしいことでしょうか。
加害者は「被害者の仮面」をかぶり、個人のアイデンティティーを否定して精神的に苦しめてくる。
無視はその見た目とは裏腹で、非常に凶暴な性質を持ったいじめの一つです。
そもそも加害者は攻撃的であることが多い。
しかし問題のない場所で、いじめは起きない。
職場にいじめを発生させる風土があれば、無視が絶えることはありません。
ではつらい無視はどうやって対処すればいいのでしょうか?次の記事に続きます。