「あれぇ?絶対に積んだと思っていたのに……」
訪問先に持っていくはずの販促物が足りない。またミスだ。数量を間違えた。対策を立てたのに意味ないじゃないか。
また上司に笑われるだろう「おまえのダブルチェックは機能しない」と……。
思い込みで行動する癖がある人は、どうしてもミスが減りません。
数字の見間違いが多いと事務処理でミスをする。
機械の操作ミスは、命の危険すら引き起こす……。
どうしたらミスを減らす対策ができるのでしょうか?
問題の真因を明らかにして、効果的な防止策を見つけ出しましょう。
個人でも簡単にできる思い込みミスの防止方法をご紹介します。
目次
全ての思い込みミスを明らかにする
問題の大きいミスから対処する
「今月3回も大きなミスをしちゃったよ……」と失敗が続くときは、つらい気持ちになりますよね。
しかし悔やんだって何も改善しない。
ミスをなくすために、防止策を考えなくてはなりません。
防止策を作る第一歩は分析です。自分が起こすミスの種類を知らなくては対処のしようがない。
どんな行動でもミスが起こる可能性はありますが、「よくあるミス」はとりわけ発生確率が高くなる。以下の2つのミスを比べてみましょう。
- 訪問先に届ける販促物を車に積み忘れる:月間でミス4回・営業日20日=約20%
- 返品レポートの送信し忘れ:月間でミス1回・営業日20日=約5%
どちらも同じくらいの被害が出ると仮定します。
その場合はどちらの対策を優先したほうがいいでしょうか?
よりミスの確率が多い、販促物の積み忘れです。
一つずつしか対策できないなら、明日ミスが起こりやすい販促物の載せ忘れ対策を優先する(できるなら、どちらも対処したほうがよい)。
このように自分が失敗する傾向を明らかにできれば、発生確率の高い(または重要度の高い)ミスから潰していけます。
ミスを明らかにする7つのステップ
ではミスの検出方法を7つのステップに分けて確認します。
ステップ1:覚えているミスを書き出す
行動を振り返り、ミスをした経験を思い出します。とりあえずノートの片隅にでも書き出しましょう。
書き出したものは、ステップ2以降でもれなく情報を書き出すための手がかりとして使います。
- 訪問先に届ける販促物を車に積み忘れた
- 返品レポートを送信し忘れた
ステップ2:大まかな仕事内容を書き出す
自分の仕事を一覧にして書き出します。行動を振り返りながら羅列していく。
スケジュール帳やカレンダーをみると、思い出す手がかりになるかもしれません。
- 月次営業報告書
- ルート営業
- 販促物発注
- 返品対応
ステップ3:仕事を作業手順に分けて整理する
大まかに書き連ねたら、それらの仕事をする手順を一つずつ思い起こし、細かく分類していきます。
仕事Aのなかに仕事Bが含まれるというように、主従関係があるものは整理して記述します。
データの書き出しは細かいほうが役に立つ。できるだけ分解して書き連ねましょう。手順をもれなく書くように注意。
以下に簡単な例を出します。
- 月次営業報告書
- 予算データを参照して、予算値を記入する
- 業務端末からデータを抜き出して、実績値を記入する
- 所感を記入する
- 来月の行動目標を記入する
- 3日までに部長にメールで提出する
- ルート営業
- 販促物発注
- 社内ポータルのフォームに入力し発注する
- 届いた販促物を営業所で開封する
- 販促物を車に積む
- 取引店舗に配達する
- 返品対応
- 故障内容と返品理由をまとめる
- 返品センターに電話連絡する
- ◯急便に集荷依頼をする
- 取引店舗から直接返品センターに配送する
- 返品レポートを社内ポータルから送信する
- 販促物発注
ステップ4:作業手順ごとに起こったミスを書き出す
ステップ1で書き出したミスの一覧を参考にしながら、どの手順でミスが発生しているのか詳しく確認し、ステップ3で作成した作業一覧表に書き込みます。
この時点で忘れていたミスを思い出せば、それも書き加える。
……
業務端末からデータを抜き出して、実績値を記入する
→営業報告書の実績データを間違えて記入した
……
販促物を車に積む
→訪問先に届ける販促物を車に積み忘れた
……
返品レポートを社内ポータルから送信する
→返品レポートを送信し忘れた
ステップ5:ミスが仕事に及ぼす影響度を5段階で評価する
浮かび上がったミスがどれくらいの被害を引き起こすか検討します。以下の5段階評価を付ける。
- 0:ミスが無視できるレベル
- 1:あらためて対処し直せば解決するレベル
- 2:緊急での対処を求められるレベル
- 3:対処が難しく、被害が重篤になる可能性を秘めるレベル
- 4:重篤な被害を引き起こし、大損害をもたらすレベル
- 影響度得点の例
- 営業報告書の実績データを間違えて記入した:[影響度]2
- 訪問先に届ける販促物を車に積み忘れた:[影響度]2
- 返品レポートを送信し忘れた:[影響度]1
ステップ6:ミスが起こる頻度を5段階で評価する
続いてミスが起こる頻度(ひんど:たびたび起こる度合い)を分析し、得点付けをします。評価は以下の5段階です。
- 0:対策済み(再発はしない)
- 1:数年に1度レベル
- 2:年に1度レベル
- 3:月に1度レベル
- 4:週に1度以上のレベル
- 頻度得点の例
- 営業報告書の実績データを間違えて記入した:[頻度]2
- 訪問先に届ける販促物を車に積み忘れた:[頻度]4
- 返品レポートを送信し忘れた:[頻度]3
ステップ7:影響度と発生確率を掛けて、対策の優先順位を決める
最後に影響度と頻度を掛け算して、ミスの総合得点を算出します。得点が高いミスほど、優先的に対策しなければなりません。
- 発生確率得点の例
- 営業報告書の実績データを間違えて記入した:[影響度]2×[頻度]2=4点
- 訪問先に届ける販促物を車に積み忘れた:[影響度]2×[頻度]4=8点
- 返品レポートを送信し忘れた:[影響度]1×[頻度]3=3点
以上の結果、得点が高い「訪問先に届ける販促物を車に積み忘れる」というミスを一番に対策したほうが良いと分かりました。
もちろん改善が必要な全てのミスに対して、防止策を検討したい。
しかし時間や予算などの資源不足で全てに対応できないのなら、得点順に改善していきます。
具体的な思い込みミスの防止方法
問題の原因を見つける「なぜなぜ分析」
全ての作業手順を点検してミスが抽出できました。しかしそれだけでは効果的な対策方法は浮かばないでしょう。例えば、
訪問先に届ける販促物を車に積み忘れるミスの対策
→積み忘れないように注意する
というような曖昧な防止策では、恐らくまた再発する可能性は高い。
それではどのような防止策を考えれば良いのでしょうか?
ミスの真因を明らかにして、防止策を考える。
真因とは「本当の原因」ですよね。本当の原因がわからなければ、効果的な防止策は見つからないのです。
それではどうやって真因を見つけるのでしょうか?
ズバリ「なぜなぜ分析」を用いればいい。シンプルかつ効果的ななぜなぜ分析は、多くの現場で実践されています。
もともとは国際的な自動車メーカー:トヨタがミスの再発を防ぐために用いた手法です(なぜなぜ分析と呼ばれていたようです)。
この方法はミスを深掘りすることで、問題の真因を見つけ出すことを目的とする。
もし場当たり的な対処方法を試しても、結局のところ問題は再発するでしょう。
よって面倒でもなぜなぜ分析で深掘りします。真因に対処すれば、再発の可能性が低くなる。
その方が問題対策のコストが少なくなるのです。
問題と原因には因果関係が必要
なぜなぜ分析の方法は非常に簡単です。
まず「なぜ問題が生じたか?」という問いを5回繰り返します。
続いて最後に浮かび上がった真因の改善策を検討する。
もし真因より手前のに分かった原因の一つに対策が必要なら、それも検討したほうが防止策の精度が高まるでしょう。
非常に簡単ですが一点だけ注意事項があります。それは、
- すでに分かっている問題と、深ぼって気づいた原因との間には、因果関係があるか。
因果関係とは、論理的に証明できる、原因と結果の関係のこと。
もし論理性を無視すると、問題の真因に近づけません。例えば、
1.なぜ訪問先に届ける販促物を車に積み忘れるのか?
→突然、注文されるからだ(なぜ突然だと忘れるのか明確ではない)
そのためなぜなぜ分析は冷静に分析する必要があります。
なぜなぜ分析の具体的な方法
さて実際の例を出してみましょう。
- 「訪問先に届ける販促物を車に積み忘れた」について、なぜなぜ分析
1.なぜ訪問先に届ける販促物を車に積み忘れるのか?
→出かける前に慌てて準備をするので、チェック不足になるからだ
2.なぜ出かける前に慌てて準備をするのか?
→前もって準備していないからだ
3.なぜ前もって準備しないのか?
→前日の仕事終わりに翌日の予定を確認していないからだ
4.なぜ前日の仕事終わりに翌日の予定を確認していないのか?
→予定を確認するための時間をもうけていないからだ
5.なぜ予定を確認するための時間をもうけていないのか?
→帰社時間が終業ギリギリになるからだ。
ということで以下のようにまとまりました。
- 真因:帰社時間が終業ギリギリになるため、翌日の準備ができない
この真因に対して例えば以下のように対策を検討します。
対策方法
→滞在時間の短縮に努め、終業30分前までに帰社できるように訪問先を出る
→会社を出るときにもう一度チェックをする
対策方法が実行できなかった場合
→翌日の朝イチで、荷積みを完了させる
というようにすれば、効果的な解決策が出るので、問題が終結するかもしれません。
もし5段階のなぜなぜ分析で真因までたどり着けたと感じられなかったら、6つ・7つと掘り下げてもよい。例えば、
6.なぜ帰社時間が終業ギリギリになるのか?
→B店の担当者との雑談が長くなり、滞在時間が伸びるからだ
ここまで掘り下げれば対策案はもっと具体的になるでしょう。
もしなぜなぜ分析で導き出した防止策を実行しても、問題が完全に無くならなかったら、他の原因がひそんでいるかもしれません。
その場合はまたなぜなぜ分析を実行してください。
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チェックリストでし忘れミス防止
行動に気をつけるべき点が多いと、うっかりミスが「し忘れ」を引き起こします。
し忘れを防ぐためには「チェックリスト」が有効な場合が多い。非常にシンプルで古典的な方法ですが、その効果は非常に高い。
やり方は複雑な仕事を一つずつの行動に分けて、リスト化するだけです。
- 取引先に訪問する場合のチェック事項
- 最新の営業報告データを持ったか?
- 売り場改善レポートは必要か?必要なら持ったか?
- 販促物の依頼はあるか?あるなら持ったか?
- 移動プランを確かめて、帰社時間の計画を立てたか?
- その他の約束はあったか?その準備はしたか?
- 運転免許証は持ったか?
チェックリストは準備時と直前に「ダブルチェック」できると、効果はより高くなるでしょう。
余談で僕の経験ですが、工場の管理をする仕事に就いた直後のとき、操作手順が複雑な機械の管理を任された経験があります。
複雑な機械なのに手順書もなにもない(口伝えのみの)職場でした。
しかし自分でチェックリストを工夫して作り、運用したおかげで、未経験にもかかわらずミスはほとんどありませんでした。
しばらくして業務に慣れたのでチェックリストの運用を止めたところ、反対に”し忘れミス”が頻発してしまったのです。
チェックリストは能力を高める以上に、し忘れミスを防げる優秀なツールだと感じました。
仕事を整理して頭の余裕を確保
前回の記事「思い込みミスを改善する3つの基本。集中力を高める自己管理」で解説したToDoリスト。
この運用にはもう一つ大事なテクニックがあると話しました。
そのテクニックとは確実に終わる仕事だけに取り組むということです。
つまり難しすぎる・多すぎる仕事を持ってしまうと、し忘れどころか、時間がなくて完了できずに失敗します。
また焦って仕事をすることで、1つあたりの仕事の精度が低くなり、ケアレスミスが引き起こされてしまう。
確実に終わる仕事だけに取り組むためにはどうしたらいいのでしょうか?
仕事の見積もりを立てて、作業時間を予測することです。
作業時間が分かれば、スケジュール表と照らし合わせて、すべての仕事が終わるか否かチェックできる。
もし終わらない仕事が出るようなら「新しい仕事を断る・仲間に頼む」などの対策が必要になってきます。
常に仕事は完遂すると決めて取り組みましょう。
仕事時間の見積もりという一手間のおかげで、集中力が高い水準を維持し、仕事の成果も良くなるでしょう。
仕事の整理に関しては以下の記事で詳しく説明しています。
仕事が忙しすぎる。断りたい仕事を断らずなんとかするアイデア
仕事を振られすぎてストレスを感じている。それを誰かに相談すると「嫌なら断ればいいじゃん」と言われてしまう。 断れないから仕事を請けている。そんなふうにバッサリ言われてもどうして良いのかわかりません。 ...
おさらい
人にはそれぞれ、やってしまいがちな思い込みミスの傾向があります。
自分がどんなミスをしてしまうのか明らかにし、ミスの重要性と頻度を掛け算すれば、優先して対策すべき問題が分かる。
対策すべき問題が分かったら後は簡単です。なぜなぜ分析を活用して、真因を明らかにすれば、防止策は自ずと見えてくる。
複雑な業務内容はチェックリストを準備しましょう。ミスは確実に減ります。
また見通しを立てないと、仕事の抱えすぎでパンクしてしまう。
ToDoリストに乗せる項目は、どれくらいの時間で終わるか把握が必要です。
次の記事では「思い込みミスを減らす行動習慣」についてお話します。