非行に走る理由を個人の資質的な問題だとすると、もう非行を犯した子供たちは永遠に立ち直れないことになる……
しかし多くの子供たちは更生して、自分の能力を社会のために生かすことができている。
つまり犯罪に影響した個人的特徴は、活用次第で世のため人のためになるということだ。
子供が不良になる原因として考えられるのは、個人的要因と環境要因の相互作用です。
中でも発達障害などの個人的な要因は生まれ持ったものが多いので、あとからは変えられない気がします。
しかし同じような特徴を持っていても、非行に走らない子供はいますよね。
子供が罪を犯さないよう支援するために、非行に走りやすい子供の特徴を、心理学の知見から学んでいきましょう。
その前に読んでおきたい記事
自己意識が高い
自意識過剰だと非行に走る傾向が高い……
というのは正しい表現ではないかもしれませんが、非行を経験した子供は、公的自己意識特性・私的自己意識特性が高い傾向にあることが研究により示されました。
参考:非行への認識による自己意識特性の違いに関する研究(PDFファイル)
- 公的自己意識とは、自己の外見など他者から容易に知ることのできる面について注意を向けやすい傾向のこと
- 私的自己意識とは、他者からは容易に知ることのできない、態度や動機や考え方といった自己の内面に注意を向けやすい傾向のこと
以上から、
公的自己意識特性が高いと、社会に映る自分への意識が高いため、社会が奨励する基準を採用しやすい傾向がある
私的自己意識特性が高いと、内面世界に注意を向けるため、個人的な基準で行動を選ぶ傾向がある
ということがわかります。
高い公的自己意識特性を持つと普通はいい子になりそうですが、反社会的集団にいる場合もそこの基準に従ってしまう。
私的自己意識特性が高いと、社会のルールなどに違和感を持ちやすく、自分なりの価値観を優先しやすいんですね。
つまり私的意見から社会的基準に反発しやすい一方で、不良集団の同調圧力に流されやすくもある、アンビバレントな性格傾向を持っているといえるでしょう。
しかしこの特性をまっとうに生かせるのなら、高い自己意識は人間的成長に大きく貢献します。
例えば高い公的自己意識があると、清潔感や振る舞い・ビジネスマナーなど、対人関係で生かせるスキルが身につきやすい。
接客業やタレント業など、これらが求められる職業は数多くあります。
また私的自己意識が高いと内省的になれ、自己理解力が高く、個人的な世界観を育てやすい特徴を持つ。
これらは多くの仕事で生かせる能力で、特にアーティストは私的自己意識が高い傾向があるようです。
このように高い自己意識特性を適切な環境下で養っていけるのなら、むしろ個人のキャリアへ貢献できるのです。
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共通感覚の欠如、高い無気力感と享楽感覚
前述の自己意識特性が高いことも影響してきますが、非行を起こしやすい状態として、共通感覚の欠如・高い無気力感・享楽感覚が挙げられます。
まずは論文の引用を確認してみます。
公的及び私的自己意識のそれぞれから喚起される判断と行動などの不一致から社会における自己の異質性(=共通感覚の欠如)への実感を高める。
次に,その認識から勉学や部活といった活動を通した自己実現や一般生徒との交流を諦め(=無気力感),自己と同じような社会に馴染めない学生との繋がりをもとうと非行への興味を有するようになる。
そして“今その場が楽しければいい”といった感覚(=享楽感覚)を背景に学校生活ではなく逸脱した友人との交流に楽しみを見出し,非行を深化させるということである
引用:非行への認識による自己意識特性の違いに関する研究(PDFファイル)
とあります。難しいので簡単な例を出してみます。
学校の宿題が出されたら、公的自己意識では「ルールだからやらなきゃ」と思い、私的自己意識では「やる意味あるの?」と考える。
宿題をやらなきゃいけないプレッシャーを感じつつ、本心では納得できないという点で葛藤している。
一方で周りのみんなは素直に従っているように見えてしまう。
そのことから「みんなと違う自分は普通じゃないんだ」と感じてしまい(共通感覚の欠如)、学校の活動や普通の生徒との関わりをあきらめてしまう(無気力感)。
次第に同じく関わりをあきらめた者が集まるようになり、一般的なルールから逸脱した行動に惹かれるようになる。
その場の楽しさ(享楽感覚)を求めて先々を考えない問題行動が増えた結果、非行に陥ってしまう。
つまり社会適応できない自分を感じてしまうと、学生に求められる経験や人間関係をあきらめて自分と似ている者同士で集団を築く。
結果として将来への見通しが持てず、その場の雰囲気や、不良集団内の規範・短絡的な利益を優先する気持ちから、非行につながっていくのでしょう。
これら状態になると、ただ叱るなどの指導は効果を発揮しない。
本人の個別性や訴えることの裏側にある欲求や願望をしっかり聞き取り、信頼関係を築くことから始めなければなりません。
アンバランスな共感性を持つ
「相手の気持ちがわからないから罪を犯すのだろう」
非行少年は共感性がないと、考える人が多いのではないでしょうか。
しかし青年期においては、むしろ共感性が高いほうが非行に走りやすいことを示した研究があります。
犯罪者は,他者の不運な感情体験や苦しみに対して同情的で,何らかの配慮をすることに方向づけられやすい
引用:青年犯罪者の共感性の特性
共感性が高いからこそ、他者が表す痛みに過剰に反応して、攻撃的になってしまうというのです。
なぜ彼らは攻撃的になってしまうのでしょうか?
ここにはアンバランスな共感性があると考えられています。
共感性はあるものの、他者の立場で物事を考える力が弱いため、相手の痛みをあたかも自分のもののように捉えてしまう。
ほとんどの人は相手から伝わる痛みへの共感が自分で抱えられないほど苦しくなった場合、自己防衛反応によって共感から逃れようとします。
一方で共感の痛みが許容値を超えても、自他の区別をつけられないと、防衛反応が働きません。
結果として混乱をきたし、衝動的行動に出てしまう。
つまり強い共感性を持っているのに、認知能力が乏しくて自他の感情を区別できない人は、非行に陥りやすいのです。
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知的障害・発達障害を理解されずにいる
人は個性を他者に受容されてのびのびと生活できたなら、自分らしく健全に育っていきます。
自分らしく生き生きと過ごす人は、誰かと関わる中で何かしらの役割をもち、社会的幸福へ貢献できているはずです。
しかし個人特性を周囲に理解されず、虐待にあったり、いじめにあったり、疎外感を強めたりした結果、非適応的な価値観を強めて非行に走ってしまう。
特に軽度の知的障害を持つ子供や発達障害を持つ子供は、普通に生活できているように見えても、実際は多くのシーンでしんどさを感じています。
例えば通常の勉強方法が困難な特性を持っているだけなのに「当たり前のことができない」と子供のせいにされ、無理強いさせられたり冷たくされたりする。
結果として保護者や先生・周りの人との関係はゆがんでしまうので、普通に愛されることができなくなってしまいます。
例えば境界知能(IQ:70〜84)の人は約14%います。また発達障害が疑われる人は約6.5%だということです。
数値参照:ケーキの切れない非行少年たち・「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」調査結果について
つまり40人学級において
- 境界知能の子供は約5〜6名
- 発達障害の子供は約2〜3名
もいるわけです。
これらは一人に重複する傾向はありますが、約20%ほどの子供は特性のために学習や生活へ自力での適応が難しく、息苦しさを感じていると考えられます。
特性にもよりますが彼らは認知能力が乏しい傾向があるので、人間関係の構築や感情統制・自己理解が難しく、トラブルにつながる場面が多くなる。
特に衝動性が高い子供は、後先を考えずに安易な方法で問題解決を試みるため、暴力・性暴力などに及んでしまうのです。
知的障害・発達障害に限った話ではありませんが、未成熟な子供を養育するにあたって個性の理解と尊重は必要不可欠です。
彼らには個別性のある支援が求められています。
差別の憂き目に遭いやすい、生きづらさを感じる子供たちに対しては、特にぬくもりのあるサポートを心がけていきたいですね。
おさらい
非行に走る子供の特徴を、以下にまとめてみましょう。
- ルールより自分の考えを優先する一方で、周りの目を気にして社会に合わせようとする
- 自分は普通じゃないと感じ、一般的な活動や付き合いをあきらめ、今だけの楽しさを求めて後先考えない行動を取る
- 他者の苦しみがよく伝わってくるが、その苦しみが相手のものだと区別がつかず、自分で抱えてしまう
- 発達障害や知的障害に気づいてもらえず、周りとの健全な関係を失っている
これらの特徴が犯罪の原因に直結しているわけではありません。
周りの大人達の無理解にさらされ、子供たちが自分の特徴を生かす方法を学べないため、生きづらさを感じているのです。
ほとんどの特徴は適切な支援があれば、適応的に暮らせたり、その才能を開花させることができたりします。
誰もが個人差に配慮できるような、優しい社会を築いていきたいですね。
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