非行は人が自由に生きる権利を奪いとる、在ってはならない行為だ。
そのため罪を犯した非行少年や、原因と決めつけられた親・家庭環境などを非難する声が、社会の中で連鎖している。
しかしただ責めるだけでは、社会は絶対に変わらない……
人が考えを深めて前向きな発想ができるには、その対象への理解が求められます。
なぜ非行に走るのでしょうか?
では心理学的な見地から非行に走る理由を一緒に考えましょう。
問題解決を求めて非行に走ってしまう
非行というのは反社会的な行動、つまり他者もしくは自分を害する行為のことです。
どうして子供たちはわざわざ非行に走ってしまうのでしょうか?
子供たちにとって不満や不安という問題を解決するために選んだ不適切な行動が、非行なんです。
どういうことか、ここで一緒に考えてみましょう。
まず子供たちの非行を促進する要因は以下の2つにまとめられます。
- 環境要因
- 個人特性要因
まず環境とは「家族」「学校」などで育まれる人間関係や、地域特性・その家の暮らしぶりのような、個人を取り巻く周囲の状況です。
特に家庭における虐待や阻害感、学校でのいじめなど、非行に影響すると古くから考えられています。
次に個人特性とは性格や認知能力、問題場面での行動傾向など、その時点の個人に含まれる要素です。これも子供の非行化に影響を及ぼすと考えられる。
- 怒りっぽい(性格)
- 他者が話している内容の理解が難しい(認知能力)
- 失敗したら嘘をついて隠そうとする(行動傾向)
というようなものが例としてあげられます。
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これらの要因があると絶対に非行に走る……もちろんそんなわけありません。
虐待を受けていても犯罪に走らない子供は多くいますし、キレやすい性格の子供でも次第に落ち着いてくることはよくあるでしょう。
一方で多くの非行事例を見てみると、環境要因と個人特性要因が相互作用を起こしているケースを観察できます。
実のところ個人特性に関しては、周囲のサポートによってわりと適応的に発達していく傾向があります。
しかし劣悪な環境は子供に対してネガティブな影響を及ぼす可能性が高い。
つらい環境下にある子供は、犯罪に手を染めなかったとしても、自傷行為をしてしまったり、長きに渡り対人不安を抱えることになったりします。
つまり環境の悪影響によって健全な心身を手に入れなれなかったら、子供は感じている不安や不満を解消するために、不適切な行動を選んでしまう。
不器用な子供は、非行によって今の苦しさから逃れようとしているんですね。
残念ながら一時しのぎの方法では何も解消せず、同じ苦しみを味わい続けることになってしまいます。
非行を起こしやすい性格は、脳の働きが影響する
環境ではなく個人のどうしようもない変化によっても、犯罪傾向が高まる可能性があります。
例えば、何か脳に重大な変化が起こるのなら、自己統制力は低下してしまう。このことを示したのが次の事例です。
鉄道工事の現場監督だった「フィネアス・ゲージ」という人は、みんなから信頼をあつめるような、安定した性格を持っていました。
そんな彼は不運にも爆発事故によって、前頭前野周辺(前頭眼窩野と前頭葉の先端部)を損傷してしまったのです。
しばらく療養したあとにゲージは現場へ復帰したのですが、粗暴で直情的な性格に変わってしまいました。
ゲージが損傷した前頭前野は人らしい目的を持った行動や社交性を司ります。
この部分の機能が十分に働かなくなったので、彼は他者へ攻撃的になり、信頼を失ってしまったのです。
生まれつき前頭前野の働きが活発でなく、衝動性を抑えるのが苦手な人もいますし、脳に深刻なダメージを受けたり腫瘍ができたりして、性格が変わってしまう人もいます。
参考:心理学ビジュアル百科
これは現実味のない話ですが、もしわたしの意思や魂が前頭前野の働きが活発でない人物へ乗り移ったとしたら、おそらく自己制御が難しくなり、罪を犯す可能性は高まるでしょう。
前頭前野の働きが活発でなかったとしても、人間としての存在は平等であるはずです。
世の中には個人的な特徴のため、思慮深く考えられない人がいることを忘れたくありません。
まともな子育てを学ぶ環境が乏しく、非行化を止められない
少年犯罪のニュースが出ると、ワイドショーやSNSで誰かを吊るし上げるような声が多発しますよね。
非行少年本人だけが責められるケースもあれば、養育者や指導者に矛先が向かうこともあります。
その声が重なり続けると過大なストレスとなって、言われた当人は心と体が著しく苦しくなり、最悪の場合は自殺してしまうこともあるでしょう。
彼らはそこまで言われて当然なのでしょうか?
一般的な社会で生きづらさを感じるような特性を持つ子供が、劣悪な環境下に置かれたから、不器用にも非行に走ってしまったのです。
そんな彼らも特性が理解され、支援を受けられるような環境であれば、少年法における責任を果たした後の人生を、自分らしく生きられるのではないでしょうか。
だからといって適切な教育ができなかった養育者や先生が全部悪いわけではありません。
彼らは子供にとって劣悪な環境を作ってしまいましたが、それもしかたない部分があるのです。
適切な教育とは
- 知識
- スキル
- 活用する態度
この3つがそろってこそ成り立ちます。
しかし子供の個性にもれなく配慮できるほどの高い能力を、すべての教師が持っているわけではありません。
能力は鍛えれば伸びていきますが、それを実現するトレーニング体系が整っていないのです。
多くの教員は仕事が山積みになり、労働時間が長く、覚えることもたくさんあり、目の前の指導に手一杯な状況を強いられているんです。
なかなか自分自身を省みることができず、子供の行動一つ一つに激しく精神を揺さぶられる人もいます。
今のところ教育の能力は個人の資質に依存しているので、自己研鑽が苦手な人は不適切な指導をしていることにすら気づけていません。
そして親のほうがもっと事態は深刻です。
親は教育に必要な能力を身につけられる環境が、そもそも用意されていない。
自己研鑽どころか、そもそも自分の何を育くめばいいのかを理解できていない人が多いのです。
だからといって、できない人を排斥するように、誹謗中傷してもいいのでしょうか?
私たちが非行を目の当たりにしてすべきことは、原因探しをして吊るし上げることではありません。
事件から問題点を見つけて改善案を生み出し、自分の行動を最適化する。
これが養育環境を良くすることであり、ひいては非行をなくすことにつながるのではないでしょうか。
問題点を見つけて改善案を生み出すには、非行についての広い理解が必要です。
つまり社会をありのままに受容して、その中でできることを見つけるために、学習したり想像したりし続けることが大切なんですね。
おさらい
この記事に書かれていたことをまとめました。
- 適切な養育を受けられなかった子供は、適切な不満の解消方法を学べないため、個人の特性によっては非行に走ってしまう
- 環境の悪影響が強すぎる場合、人は適切な考えかたを保っていられない
- 前頭前野の活動性が低いと、自己統制が苦手になる
- 適切な養育に求められる知識・技能・態度は、普通に過ごしているだけでは学べない
罪を犯した少年や、その家族・学校関係者を責めるだけでは、健全な社会は築けません。
しかし腹が立つというのは、この社会の問題を自分の問題にできるということです。
他者への共感を前向きに生かせられたら、人は問題をバネにして、よりよく変われるのです。
ぜひその優しい気持ちを、皆が安心して暮らせる社会づくりに生かしていきたいですね。
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