片親や低所得など、子供が不良になる原因は家庭環境だと考える人は多い。
一方で虐待やネグレクト、愛情不足など、子供の非行を親のせいだと考える人もいる。
確かにさまざまな因子が影響して非行が起こるのは事実だが、原因を見つけるだけでは何も変わらないのだ。
自分らしく健全に育っていけば、子供は社会の中で適応的に生活できる力が身につくでしょう。
子供が自分らしく育つために、親にできる支援とは何でしょうか?
親が傾聴スキルを身につけていたら、子供の非行化の強い抑止力になるんです。
目次
非行に影響する家庭環境の考察
非行に影響する家庭の要素
現在のニュースで報道される少年犯罪の内容は多様化しており、どんな家庭で育っても子供が非行に走る可能性があるのではないかと感じられます。
それを証明するように、古くから非行の原因になり得るといわれていた、
- 貧困家庭
- ひとり親(両親がいない)家庭
などは、すでに直接の原因ではないと考えられています。
非行原因に関する総合的研究調査(第3回)によると、
非行少年は単親家庭や経済的水準の低い家族に比較的に多いが,その家庭自体が非行化要因となるのではなく,そこで親子関係における問題がひきおこされたとき,そのことが非行化を促す。
とあります。
この場合の親子関係における問題とは何でしょうか?
それは親の「役割」が損なわれた養育です。
例えば、
- 十分な愛情を注がずに放任する
- 人格を尊重せず、暴力を奮ったり、存在を否定したりする
- 子供から嫌われないように、何でも言うことを聞く
- 親が子供のお手本になれない
などのような関わりかたをすると、子供が自分自身の可能性を自由に伸ばしていけなくなってしまいます。
子供は何者にもなれる権利がある。
子供が持つキャリア選択の権利を尊重し、より社会的に望ましく、自分らしい方向へ進めるように支援できることは、親にとって望ましい姿だといえる。
つまり親には子供の個人的な価値観を育み、主体的に目標へ向かっていける力を育んでいく役割があるのです。
そんな役割を果たせない親のもとで育てられるという環境こそが、子供の非行化へ影響しているのではないでしょうか。
まともな方法を知らないから子供を殴る
だからといってダメな親を責めるだけでは何も解決しません。
そもそも親の役割を身につけるのは難しいので、未熟なまま子育てをせざるを得ない状況があります。
ほとんどの親は子供に対して
幸せに育ってほしい
と思っているでしょう。
幸せに生きられる子供を育てるために、しつけがあるんですよね。
しかし適切なしつけの方法を知らないため、体罰のような安易な方法に頼らざるを得ない親はたくさんいます。
例えば体罰を続けると以下のようなリスクがあると研究結果が示しています。
- 親子関係がうまくいかない
- 子供に精神的な問題が生じる(落ち着きがない・約束を守れない・感情をうまく表せないなど)
- 子供が反社会的な傾向を持つ(暴力による問題解決を好むなど)
これらの問題が深刻化すると、
- 愛着障害
- うつ
- パーソナリティ障害
などの心の問題を引き起こしたり、場合によっては
- 非行・犯罪
といった形で悪影響が現れてしまいます。
これほど恐ろしいリスクを抱えているのに、体罰を許容している親の割合は
約60%
もいる。
参考:体罰等によらない 子育てを広げよう! - 厚生労働省/ケーキの切れない非行少年たち
もちろん大切なわが子にこれらのような困難を背負わせたい親はいないはずです。
つまり親が適切な養育に必要な知識を持たないために、体罰という安易で危険な方法に頼らざるを得ないんです。
非行はなぜ起こる?原因や背景があれば、あなただって過ちを犯す
非行は人が自由に生きる権利を奪いとる、在ってはならない行為だ。 そのため罪を犯した非行少年や、原因と決めつけられた親・家庭環境などを非難する声が、社会の中で連鎖している。 しかしただ責めるだけでは、社 ...
低い対人スキルは子育てを泥沼化させる
体罰の他にも不適切な育て方はたくさんあります。
その不適切な養育態度のリスクを表したのが、以下の表です。
引用:大学生の母子関係とパーソナリティとの関連性についての一研究
円の周囲に配置されている点線の四角形に書かれたものが、養育傾向によって考えられる子供の性格変化パターンです。
子供を支配したり、甘やかしすぎたり、構わなかったり……
つまり子供の人格を尊重せずに親の価値観で勝手に決めるような養育態度では、主体的で安定した子供は育ちにくい。
なぜ親は自分の価値観を子供に押し付けてしまうのでしょうか?
親の対人関係スキルが足りていないから
でしょう。どういうことか以下で考えてみます。
そもそも子育てには多大なストレスがかかりますよね。
親はそのストレスを何らかの方法で解消しなければなりません。
ストレス対処にはその場しのぎの方法と、先を見越した方法があります。
その場しのぎの方法ではとりあえずの危機を回避できますが、問題の本質は解消されておらず、後々になって苦しい思いをしてしまう。
この問題を「子供が新しいゲーム機をうるさくねだる」という状況への対処で考えてみましょう。
子供の要求に従ってゲーム機を買い与える
- 短期的な結果:子供が満足し、少しは静かになるだろう
- 長期的な結果:わがままがエスカレートし、要求が通らないと暴力的になるだろう
という具合です。
一方で先を見越した方法では、とりあえず頑張らないといけないので大変ですが、子供が自分の問題を自分で解決できる力を育めるのです。例えば、
子供と話し合い、親子が納得できる方法を模索する
- 短期的な結果:衝突するかもしれないし、納得できるまでに時間がかかるだろう
- 長期的な結果:子供が欲求に振り回されず、先々のことまで考えられるようになるだろう
というように子供を尊重して熱心に向き合えば、将来的に良い結果が見込まれる。
つまり子育てにおける多くのシーンは対人関係であり、対人関係スキルを磨くことがストレス対処につながるわけです。
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子供の話を傾聴できる親になる
子供が求める「頼れる相談者」としての親
これまでの話から、対人関係スキルを磨くことが、子供の成長を支える上でも、親自身を守るためにも必要だとわかりました。
このように子供の成長には、親の成長が大きく影響するんです。
人間は単に年齢を重ねるだけでは、完成しませんよね。
大人になってからも努力を続けることで、精神的に成長できるのです。
親はどのような対人スキルを磨いていけばいいのでしょうか?
一番に考えられるのは、傾聴力を磨くことでしょう。
傾聴とは、相手の話へ耳を傾けて積極的にじっくり聞くことを意味します。
多くの子供たちは、親にもっと話しを聴いて欲しいと思っています。
児童自立支援施設や少年院で暮らす子供たちに、家庭への評価についてアンケートを取ったところ、
彼らは,親とのコミュニケーションを欲しており,「もっと話がしたい」という回答は,支援施設で67.9%, 少年院でも66.4%に上っている
引用:「非行少年」たちの家族関係と社会的排除(PDFファイル)
というように3分の2を超える子供たちが、親との対話を求めていました。
これらの中には既に関係づくりでくじけてしまい、親を拒否している子供たちもいるので、コミュニケーションが必要なケースは更に多いと考えられます。
対話と言っても子供より大人の方が一般的には言語的能力が高いので、親子の対話は親が中心になりがちですよね。
しかし人は普通、自分の気持ちをわかってほしいと感じている。
そのためには相手の話をじっくりと聴く「傾聴力」が求められるのです。
子供が傷つく、悪い話の聴き方
傾聴のスキルを自然に身につけられている人はかなり少ない、と筆者は感じます。
多くの親は、子供との対話が以下のような悪いパターンになりがちなんです。
- お説教
- 取り調べ
- 話ドロボー
1.お説教
お説教とは親が対話の主導権を握って、子供の悪いところや物事の理屈を話し続けてしまう状態のことです。
子供が反省しているのか、悪いことを理解しているのか、を納得できず、親の言い分を認めさせようとしているんですね。
お説教は、相手へ一方的に意見をぶつけて屈服させようとするマウンティング行為なんです。
2.取り調べ
取り調べとは、子供に質問を投げかけ、その返答に対して親が正論をぶつけ返す対話パターンのことです。
一見すると平等な対話になっているように見えますが、実のところ親が言いくるめているだけでしょう。
このようなコミュニケーションが中心になると、子供は自分の意見が言えなくなり、親に合わせた答えをいうか、黙り込むことで反抗します。
3.話ドロボー
話ドロボーは、対話のはじめに子供の考えを聞こうとするのですが、途中でスイッチが入って説教モードに移行するパターンです。
親が子供の気持ちを聞こうとしている姿勢はいいのですが、根底では親自身の考えを押し付けたい気持ちが潜んでいるのですね。
しかも「話を聴いてやっているのに」と自分の問題に気づけない話ドロボーの人も中にはいます。
以上、これら3つの悪いパターンに共通するのは、子供を親の価値観で支配しようとしている傾向です。
そんなコミュニケーションだと、子供は気持ちを受け止められているとは感じないでしょう。
皆さんは当てはまりませんでしたか?
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子供の非行化を防ぐ話の聴き方
自分の話を真正面から受け止めてくれない親を、子供は心から満足することがないでしょう。
それほどコミュニケーションは、親子関係で重要な位置づけにあるんです。
では親に求められる傾聴とは、どのようなスキルなのでしょうか?
対話によって子供の成長を支えられるようなスキルが求められている。
以下が子供向けを想定した傾聴の基礎です。
- 時間を費やす覚悟を決める
- 対話の話し手は子供、親は聞き手に徹する
- 子供の考えや気持ちを受け止めて、理解を伝え返す
- 問題点は短く端的に伝える
- 視点を変える質問をする
1.時間を費やす覚悟を決める
年齢にもよりますが、理路整然と話せない子供相手の傾聴は時間がかかります。
親はじっくりと腰を据えて、子供の訴えに耳を傾ける必要がある。
また一度の対話を経験したくらいでは、どんな人でも大きな成長は見込めません。
これから子供が自立するその時まで、親は子供をサポートする責任を全うしなければなりません。
2.対話の話し手は子供、親は聴き手に徹する
親が対話の主導権を奪ってしまうと、子供の自発的な成長は望めません。
自力での問題解決能力を育くめなかった子供は、将来苦労することになるんです。
少なくとも真面目な話をしている場面では、話し手は子供、聞き手は親だという認識を持つ。
もし子供の語りが止まないのなら、話し手9:聴き手1の発言割合でもいいんです。
3.子供の考えや気持ちを受け止めて伝え返す
学校や遊びでの体験や、テレビ・漫画・文学・周囲の大人等からの観察学習で、親の想像以上に子供は豊富な経験を積んでいます。
つまり子供は既に気づきの種を持っており、自ら気づくことを求めているのです。
親は子供の気づきをサポートするために、子供の考えや気持ちを受け止め、理解を伝え返す必要がある。
なかなか気づけない子供にヤキモキしてつい指導的助言をしたくなりますが、質問などを工夫することで、気付きは促進できます。
4.問題点は短く端的に伝える
暴力やその他の迷惑行為など「自傷他害」につながるような場面では、しっかりと大人からの意見を示さなければなりません。
ただしクドクドと正論をぶつけるだけだと、子供は受け入れられていないと感じて反抗心を持つかもしれない。
親の主張は短くきっぱりと、何なら「暴力は絶対ダメだ」と一言だけ伝えて、その理由は子供に委ねてもいいくらいです。
問題行動の背景には、子供の傷ついた心があると想定し、じっくりと気持ちを聴いてあげる必要があります。
5.視点を変える質問をする
傾聴は基本的に話し手の語りから話題が転換していきますが、どうしても行き詰まるタイミングがあります。
そんなときは視点を変えるような質問をすると、活路が見いだしやすくなる。
例えば「仕方なく殴った」と言う子供に「仕方なかったね。でもこの先も同じように殴るしかないの?」と問えば、視点が今後の自分像へ移りやすい。
質問は多用すると聴き手と話し手の関係が逆転しがちなので、質問後はしっかりと聴き手に戻る意識を持つようにします。
おさらい
価値観や主体性を育もうとしていない親のもとで育った子供は、非行に走りやすい傾向があります。
子育てにおける重要な要素として対人関係スキルがありますが、対人関係スキルを十分なほど身につけている親は、それほど多くはありません。
その場しのぎの方法で子育てをしてしまうために、体罰や甘やかしが発生してしまうのです。
子供は親に自分自身を受容してほしいと願っており、そこで求められるのは対人関係スキルで、特に親の傾聴スキルです。
子供の話を受け止め理解しながら、問題解決能力を育むことで、子供は価値観を磨き社会で自立して生きていける。
じっくり時間をかけて、親子で対話していきたいですね。
ケース別、子供の問題行動に対処
問題行動を抱える子供と向き合うための、実践的な知識とノウハウが理解できる本です。